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シナリオ投稿作品

No.1 e.s.

ケイシさんのマイキャラ

投稿者:ケイシ

投稿日:2007-05-16 18:29:52(2007-06-15 16:55:16更新)

引用:

得点:3.33

閲覧数:559

   1
   
 もうすぐ夏が終わるね……と彼女が言った。

 その彼女の言葉は、二学期が始まり、秋になり、そして冬になっても僕の頭から消えることはなかった。夏の太陽が僕の肌に残した日焼けも、もう消えてしまったのに、その彼女の言葉は、僕の中に残っていた。
 
 どうしてその言葉が、こんなにも僕を捕らえ続けるのか?
 
 その理由は、とても簡単だ。
 あの夏休みの最後の日に、彼女が僕に遺した言葉だからだ。
 
   2
 
 『es』―医者は、彼女が患っている病気の名前をそう呼んでいた。とても珍しい病気だと言っていた……そして、治療方法が見つかっていないということも。
 僕は、そんな病気と関わりを持つなんて、今まで一度も想像したことがなかった。でも、関わりを持ってしまった。
 
 僕は、『絶望』という言葉が、辞書以外で存在することを知った。
 
   3
 
 僕が彼女と出会ったのは、高校に入学した年のことだった。
 全くの偶然だった。
 僕は入学した高校ではじめて座る席で彼女と隣同士になったのだ。
 彼女は、よく喋る女の子だった。
 ヘタをすれば授業中であっても喋り続けたけど、不思議なことに彼女が先生に注意されることは一度もなかった。それだけ彼女が巧妙に『授業中の私語』を楽しんでいたということなのだろう。
 もっとも、彼女のお喋りの相手であった僕の方は、よく先生に注意されたけど……。 

   4
 
 僕が、彼女と一緒にいることに違和感を覚えなくなった頃、彼女は学校を休みがちになった。そして、夏休みに入る頃には、彼女は学校に休学届を出した。 
 
   5
 
 夏休みが始まった。

 せっかくの夏休みも、僕は楽しめなかった。この夏休みのために、彼女と一緒に立てた様々な計画を実行することができなかったからだ。その計画は、僕と彼女の二人用だったので、一人で実行することはできなかった。
 僕は、彼女に連絡を取ろうとも考えたけど、そもそも彼女の連絡先を知らなかった。一度、僕が、彼女に携帯の電話番号を聞いたとき、彼女は、「携帯自体を持っていない」と言い、そしてもし何かあれば自分の方から連絡すると言った。
 結局、七月中は、無為に過ごした。
 
    6 
 
 八月に入って最初の日曜日、突然彼女から連絡があった。連絡があったといっても、彼女から電話があったのではない。彼女から僕宛に可愛らしい封筒に入った手紙が送られてきたのだ。その手紙には、今まで連絡できなかったことに対する謝罪と、八月最後の日に『ある場所』に来て欲しいということが書かれてあった。その『ある場所』とは、僕達が住んでいる街から電車で二時間ほどの所にあった。

 『相澤総合病院』

 その病院の名前は、最近珍しい病気の手術を行ったとかで、ニュースになっていたので知っていた。
 
   7
 
 僕は、約束の日、約束どおりの時間に『相澤総合病院』に訪れた。
 病院の受付で彼女の名前を出すと、なぜか「どういうご関係ですか?」と聞かれた。今まで見舞いに行って、そういう対応をされたことがなかったので少し戸惑ってしまった。だけど、すぐに自分の名前を名乗り、「彼女とは友達です」と言った。
 すると、受付の人の態度がガラリと変わった。そして、丁寧に彼女の病室を教えてくれ、最後に、僕に対し「がんばってね」と言った。
 僕には、なんのことか分からなかった。
 
   8
 
 彼女の病室は、個室だった。
 ベッドの上の彼女は、僕の知っている彼女の姿とはまるっきり変わっていた。
 ひどく痩せていて、顔色もひどく悪かった。
 日焼けした僕とは対称的な白い肌が、彼女が夏とは無縁の生活をしてきたことを教えてくれた。
 僕は、彼女にどういう言葉をかければよいのか分からず、ただただ彼女を見つめていた。すると彼女の方から「ひさしぶり」と声をかけてくれた。
 僕も彼女に同じ言葉を返した。
 すると、そこから自然と言葉がつながりだした。彼女は、休学してからのことや、今自分がおかれている状況を僕に話してくれ、僕は、それに対して少ない言葉をはさんだ。
 最後に、僕は、彼女に言った。

「もう……会えないの……?」と。

 彼女は、僕の問いかけに、無言でうなずいた。
 
   9
 
 僕は、彼女を病院の屋上へ連れ出した。
もちろん病院には内緒だ。本来なら彼女は、絶対安静にしていなければならない。自分の足で歩いて……走って……外に出ることなど許されるはずがなかった。
 僕達は、一緒に屋上への扉を開けた。

 ……もう『世界』は、暮れようとしていた……。

 空は、紅く染まり、ヒグラシのなき声が辺りに響いている。
 彼女は、僕に背を向けると、空に向かって両手をスッと伸ばした。

『夏の終わりの日に、空に向かって両手を伸ばすの』

 ……僕と彼女が立てた計画の最後の一つだった……。
 僕は、彼女の横に並ぶと、同じように両手を空に向かって伸ばした。僕と彼女は、互いの顔を見た。
 ……そして、彼女は、儚く微笑み……僕に言ってくれた。

「もうすぐ夏が終わるね……」と。

  了

投稿者のコメント

 密かに既に投稿していた作品です。
 それ以上でも、それ以下でもありません。
 すいません。
 でも、コメントをいただけるととても嬉しいです。
 宜しくお願いいたします。

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